《千葉集会:chiba》
「家族の訴え」 2004年6月26日 古川了子の実姉 竹下珠路 それは今から31年前、私が長男を出産した丁度2週間後の昭和48年7月7日に起きました。 その年の春、県立千葉商業高校を卒業して就職した会社で、初めてのボーナスをいただき、前日の夜に約束した美容院の予約と、母と浴衣を買いに行く事を楽しみにしていた二つの予定を急に電話でキャンセルし、「いま千葉駅にいます」という言葉を最後に、ぷっつりと音沙汰がなくなってしまいました。 初めてのボーナスは手つかずのまま、封筒ごと机の中に残されていました。そして一切の音信もないまま20数年が経ちましたが、平成9年になってあるマスコミから「元北朝鮮工作員の安明進さんが平壌の915病院で了子にとてもよく似た女性に会った」という情報をお寄せいただいたのです。 皆さんの31年間の人生はどんなものでしたか。 私は了子が北朝鮮にいると言う情報を得てから「了子はどんな状況で拉致されたのか分かりませんが、自分の運命をそれなりに受けいれ、周囲の人々と共に精一杯生きているであろうと信じています」と多くの方々に語ってきました。 しかし、今回のポスター写真を作ってくださった千葉商48年同期の金井さんがこんな事を私に言ってくださいました。 「千葉商を卒業してからこれまで、思うように行かなかった事も多いですが、少なくとも僕は自分の意思で自分の道を選択する事は出来ました。それが出来なかった彼女のこれまでを、運命と言うには余りにも理不尽です」・・・と。 まったく、日本で平和に健全に生きていた妹が、あるとき突然に国家的テロの手に落ち、人生そのものを略奪され続けていることは、本当に姉妹としても日本国民としても悔しい限りです。 家族というのは、場合によってはいつも一緒にいなくとも良いと私は思っています。今は世界中で日本人が活躍している時ですから。しかしいつでもどこでも、うれしい時悲しい時、声を聞きたい時、どうしているかなと気になった時に、電話でもメールでも、そして自由に出かけていって会う事のできるのが家族ではないでしょうか。 「便りのないのは無事な便り」ということわざがありますが、いままで私たち家族は、この言葉を期待と共に不安を紛らわす免罪符にしてきました。しかしこれほど情報システムの発達した現代では、あまりに悲しい言葉です。家族がどこにいるのか、声を聞くことも連絡をすることすらもできない31年間を、1日も早く終わりにしたいだけなのです。普通の家族に戻りたいのです。 5月22日、小泉総理の二度目の訪朝には大変期待をしていました。「一昨年の9月17日の再来があるのではないか」と。 蓮池さん、地村さんのご家族が帰国できた事は本当によかったと思いますし、曽我ひとみさんのご家族も中国以外の国でご家族が充分に話し合えるよう目下調整中とのことですから、それはそれでよかったと思います。しかし、新聞やテレビの報道でみる限り、今回の訪朝では特定失踪者の問題には一言の言及もなかったようで、それが残念でなりません。政府による拉致被害者認定がなければ、北朝鮮との交渉テーブルに名前すら載らないのです。言い換えれば、日本の政府が、特定失踪者の問題について自ら扉を閉めたままだということです。 妹了子は、昨年6月に救う会全国協議会からは拉致被害者として認定していただきましたが、政府の拉致被害者認定はまだ受けていません。 一昨年に日本政府が拉致被害者について持っていた情報と、今、特定失踪者について荒木さん、川人さんはじめ、多くの皆さまの献身的なご努力で集めていただいたお1人おひとりの情報とに、どれほど情報量の差があるのでしょうか。 おそらくその差はほとんどないと思います。 そこで、今日の千葉集会の実行委員会の皆さまと千葉商昭和48年同期生の皆さまとお諮りして、「古川了子を政府の拉致被害者として認定して欲しい」という署名活動を、今日、この場から展開する事にいたしました。 特定失踪者問題が解決しなければ拉致問題の解決にはなりません。 数百人にも上ろうとしている特定失踪者の問題を、一気に解決する事はとても難しい事だと思います。現在の認定被害者十数人でさえ金政権が拉致を認めてから2年経つ今でも解決ができていないのですから。そこで、拉致の疑いが濃厚な特定失踪者の情報が判り次第、政府は順次拉致被害者として認定し、拉致問題の解決に向けて緊急に対応をして欲しいと思います。 31年間待ち続けた母も88歳になりました。一日千秋と言いますが、母にとっては一日万秋なのです。 千葉県海上町から拉致されたと思われる加瀬テル子さんは既に43年間が過ぎています。命の重さは誰も同じです。いや北朝鮮の地で助けを待っているであろう人たちの命は、互いに声が届かない分、もっともっと重く大きなものであろうと思いますし、命には限りがあるのです。 皆さまお1人お1人の声をこの署名用紙に反映させていただき、1日も早い拉致問題の全面解決に向けてご協力いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。 本日は誠にありがとうございました。 |